**********************************************************************************************

放課後先生にリップクリームを貸してあげる。
特に約束しているわけでもないのに
毎日、玄関のすぐ上の吹き抜けで待ち合わせて
リップクリームを貸し借りして
少しだけお話をする二人。


 【高柳】
高柳。たかやなぎじゃなくて、たかやぎ。一人称:俺。17歳。
口下手で真面目、かろうじてまだノンケ。
一年生の頃からなんとなくずっと保健委員を続けている。
小旅行が好き、一人でも色々と出かける。

 【籐馬】
籐馬先生。一人称:僕。保健医。
人当たりが良いけど、よく冗談めかしたりぼかしたりと、
どことなくふわふわとした言い方をしがち。
過去にお付き合い経験在り。高柳に想いを伝えることはしないようにと考えている。
唇が荒れてがさがさ。心霊系が苦手。

**********************************************************************************************
>以下で細かいこと


高柳は一年の頃からずっと保健委員を務めていたので籐馬とは顔見知りだった。
高柳は真面目で控えめで目立たない普通の生徒だったけど、
籐馬はそのなんでもない素朴なところが気に入っていた。
委員会や健康診断等の機会の度に顔を合わせ、そのうち会うのが楽しみになり、
自分はもしかしたら惚れているのかなぁと思いつつ、思ったまま高柳の学年は上がり、三年生になる。
ある日の朝、高柳が珍しく腹痛を訴えて保健室に来る。
それは初めての事で、籐馬は緊張や高揚を悟られまいと努めながら看病をしたけど、
それでもやっぱり普段の生徒よりは贔屓してしまった。
高柳からすれば、こんなに丁寧なものなのか…?といったところ。
その高柳は寝不足だったのも相まって、ベッドで横になるうちに眠ってしまう。
目が覚めたのは下校のチャイム音。慌てて飛び起きると、直ぐ横の椅子には籐馬が座っていた。
高柳はお詫びとお礼を告げながら制服を着込み、なんとなくポケットに手を入れたところで
親に持たされたきり使用していなかったリップクリームを見つける。
同時に、眠りに落ちる寸前、横で見守る籐馬の
やけに赤くて、しかし良く見たらただ荒れて皮が剥けているだけだった、唇のことを思い出し、
現状の気恥ずかしさを払うことも兼ねて、それを差し出した。
籐馬は少し恥ずかしそうに受け取り、お礼を言った。
その日から二人は『リップクリームの貸し借り』を名目に、
どちらともなく自然と放課後の校内で待ち合わせをするようになる。
高柳はリップクリームを切らさないし、籐馬は自分では買わない。
リップクリームを貸して、借りて、ついでに少し話をして。
最初はそれだけで良かった。

>その他


保健医と生徒。籐馬は高校三年生という、大事な時期に余計な荷物を背負わせるべきではないと
わかっていながら、打ち明けることも、会うのを止めることも、
ほんの少しずつ距離を縮めてしまうことも、止められないでいる。
せめて決定的な言葉・行為だけはしまいと自戒しているけれど、
そのどっち付かずな態度に、今まで男に興味を持たなかった高柳は、
逆に混乱やもどかしさや不安や苛立ちを覚えることもしばしば。
数歩心を許せば距離を置き、いつの間にかまた傍にいる。
言いたいことがあるなら言え、と高柳は思うけど、それは自分だって同じ。

贔屓しちゃった看病ってなに?:
おなかさすさすしたり、おでこなでなでしたりしてたよ。

季節は春から初夏